「舞台×ドキュメンタリー×浪曲師玉川太福譚」を終えて(後編)
通し稽古を見てから、19日の公開ゲネプロまで、部分的な稽古も含めて、一度も拝見しませんでした。
舞台をどんな感じで使うのか、どんな音響、照明なのかも、全然わからないまま、19日を迎えました。
開演し、浪打さんに呼び込まれ、二人で簡単な挨拶のあと、舞台下手の端っこ作られた鑑賞席に座る。
「さあ、では観て参りましょう」
浪打さんの言葉で舞台に目をやると、幕が開かない。客席後方から、役者さんたちが現れる。
そんな仕掛けも、私はお客様と同様に、ほとんどわからない状況で観てました。
やがて幕が開くのに合わせて、ギターの生演奏がスピーカーから聞こえてくる。この演奏が、三味線と同じメロディを弾いていることにも、最初は気づけませんでした。生のギターの音というのは、その音色だけで琴線を強烈に揺さぶりました。
玉川福太郎役の飯田一期さんが出てくる。
もちろん、声も容姿も、師匠には全然似ていない。でも、玉川福太郎のテーブル掛のかかったところに立って「玉川福太郎です」と挨拶している。
木馬亭で、玉川福太郎のテーブル掛がかかって、玉川福太郎として役者さんがしゃべっている。
大げさに言えば、玉川福太郎をまた生で見られたような、再会できたような、そんな心地さえしたんです。そんな感情が起こりうるなんて、全く予想しませんでした。
幼少期を経て、私が師匠と初めて出会うシーン。そのまま木馬亭の楽屋に連れて行ってもらって、師匠方に紹介してもらって、そのまま師匠宅に連れていってもらって。
これまで、いろんな取材のインタビューなどでも、何度となく話していること。
稽古してもらって、姉弟子たちと初めてあって、NHKラジオに出た時に私の話をしてくれて、山形のみね子師匠の実家で田んぼのお手伝いをさせてもらって、胴長を持参したら笑われて、宴会をして、師匠が犬を「なんでそんなに吠えるんだ!」って本気で怒鳴って、「ありがとうな」って見送ってもらって、次に会う師匠はベッドの上で亡くなる間際で。。。
これらの思い出は、ほとんど頭の中に映像で鮮明に残っていて、何度も反芻していて。私にとっては、当たり前というか私の一部になっているようなこと。それを舞台で見ても、もっと平気でというか、揺らぐことはないと思っていたのに。
師匠との時間が進んでいくシーンでは、途中から涙が止まりませんでした。
私が話したこと。誰より知っていることを見せられて、このあとどうなるか知っているのに。
いや、たぶん、このあとどうなるか、一番知っているから涙が止まらなかったのかもしれない。
でも、そんな感情になるなんて、舞台を観るまでは全く予想できなかった。
2日目の昼、つまり2回目の公演では、幕が開いて師匠が登場するだけで、もうほとんど泣けてしまって。それは、
「ああ、また会えた」
って嬉しさでもあるし、
「ああ、また、死んじゃうのか」
って悲しみと両方の気持ちでした。
また亡くなってしまうことが本当に悲しくて、初日以上にボロボロ泣いてしまいました。でも、涙が出たのは、2回目まででした。
3回、4回と進んでいくと、また別の感情が生まれてくるんです。
この舞台の物語、それぞれのシーン、やり取りが、私の「記憶」になり始めるんです。
1回、2回目くらいまでは、小学校のシーン、高校のシーン、全てのシーンで、「ああ、あの時はこうだったなぁ」という記憶の方が頭の中を大きく占めていて、目の前の舞台を見つつ、自分の経験した記憶を見ている、そんな状況でした。それが、回数が進んでいくと、そこに、「舞台の記憶」も加わっていくんです。
それは、ナマモノの芝居としてのちょっとした変化に気づかされたり、単純に、舞台のストーリーが頭の中に並走し出すといいますか。加えて、回数を重ねるごとに、「今日は浪曲一席、何をやろうか。何が相応しいだろうか」と考える時間も長くなりました。
5回目くらいからは、「ああ、もうちょっとで、師匠と会えなくなるのか」ということが寂しくなり始め、6回目は、この物語との別れ、みたいな感情も生まれてきました。
そんな感情の変化も含めて、こんな心地になるなんて、いったいどうして予想できただろうか。
舞台から浪曲へバトンを受けて、一席の時に毎回マクラを話ししたんですが、その時、毎回言った言葉で、
「なんとも言えない気持ちです」
としか表現できませんでした。それは嫌な気持ちということでは全くなく、温かいというか、喜びの気持ちの方がずーっと占めているんですが、でも、容易には言葉にしづらいし、したくない感情なんです。
そして、
私と、お客様の気持ちも、全然違う訳です。私と同じように、師匠が出てきただけで涙が止まらなかった方もいれば、特に悲しくなかった方もいるでしょうし、観る人ご自身の大切な人を思い描いたり、観る人の数だけ感想があるだろうと思います。どの舞台も演芸も、その点ではかわりないかもしれませんが、この舞台ほど、複雑に、なんとも言えない気持ちで、でも後ろ髪を引かれるような、そんな表現は、
そうたくさんはないよ。
と、確信を持って思います。
私の記憶の、私自身を作り上げている宝のような記憶と同様に、今回の舞台の記憶も、私の一部として強烈に刻まれました。
この舞台に出させていただいて、本当に、本当に、良かった。感謝しかありません。
未知の試みに、勇敢に立ち向かってくださった作・演出の浪打賢吾さんに、心から敬意を表したい。
唸るシーンなんてほとんどないのに、見えない部分の役作りのために浪曲をすごく勉強してくださった、主役の土田祐太さん。
他人の記憶を演じるという難題に正面から向き合ってそれを乗り越えてくださったキャストの皆さん、木馬亭の空間と私の記憶を繋げてくださった舞台監督を始め全てのスタッフの皆さんに、心の底から感謝申し上げます。
当然のこと、私の一部となった貴重な舞台を、同じ空間で体験してくださったお客様方、本当にありがとうございます。そんなわけで、私にとって皆様は、私のことを知りすぎてる人たちであり、強制的に、他人じゃありません笑。
そして、私の記憶というのは、私以外の周りの人たちの存在であり、これまで共に過ごしてくださった全ての方、そしてこれから一緒に歩んでいく皆さんにも、心から、ありがとうございますと御礼を言いたい。そして、今後ともよろしくお願いしますと。
最後になりますが、
6回の公演で私が申し上げた演目は、以下の通りです。
19日夜「不破数右衛門の芝居見物」
20日昼「寛永三馬術〜梅花のほまれ〜」
20日夜「地べたの二人〜湯船の二人〜」
21日昼「阿武松」
21日夜「三ノ輪橋とか、くる?」
22日「青龍刀権次 第二話」
「浪曲師玉川太福譚」、これからもどうぞお付き合いくださいませ。
そして、
こんな舞台を作り上げた、勇敢すぎるお二方。企画室磁場の浪打賢吾、土田祐太のご両人に、今後ともどうぞご期待ください。
玉川太福 拝
写真は、bozzoさん提供。素敵な写真をありがとうございます。
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